令和6年11月16日(土)午前10時30分より米子市立図書館・多目的研修室にて、
元鳥取県教育長の中永廣樹氏をお迎えして、
文化講演会「源氏物語の原文を味わってみる~夕顔の巻~」を開催しました。
中永先生は著書『源氏物語を読んでみよう 紫式部が伝えたかった「大切なこと」』を
今年2月に自費出版され、本年6月には当図書館主催講演会「源氏物語はおもしろい」を開催し、
源氏物語の総論についてのご講演を頂きました。
今回は「原文を味わってみる」として各論として夕顔の巻の原文を取り上げ、
時代背景、登場人物、習慣や、紫式部の巧みな文章力についての解説を中心に
源氏物語の魅力と世界観についてご講演を頂きました。
中永先生は、『日本古典文学全集 源氏物語』(小学館刊行・全6巻)の原文を基にして、夕顔の巻を
の四つの場面に分け、怪しの世界と言われるこの巻についての興味深い解説をしてくださいました。
冒頭の「六条わたりの御忍び歩(あり)きの頃、内裏よりまかでたまふ中(なか)宿(やど)りに…」については、
光源氏が、六条に屋敷のある高貴な女性のところにひそかに通っている頃の出来事、
あえて、この時は女性について六条御息所と明記せずに少し後になってから記述するところが
より怪しの世界につながるのだということ。
光源氏数え17歳。当時の儀式である元服や裳着で儀式で成人となるのが12歳~13歳ぐらい。
感染症や飢饉などが猛威をふるいたくさんの人々が亡くなる世の中で、当時の平均寿命は40代に届かなかった
とも、ライフサイクルの早い時代であったことから17歳は現在に比べてかなりの大人の年齢に当ること。
季節は夏、五条(六条の隣り)にある乳母(うば)の見舞いに訪れた際、
隣家に咲く白い花に光源氏が目を留めることから、女性夕顔との出会いが始まり、
白い花は女性夕顔の可憐さ、儚さを表していること。
そして季節は秋になり、八月十五日の夜(七月から九月は秋、仲秋の名月の夜)、
夕顔の家に泊まった光源氏は、明け方に夕顔の家を出て、
ある荒れた某(なにがし)の院に彼女を誘い、その日の夜に事件が起こったこと。
今昔物語集に、某院を連想させる廃屋に物の怪が出てくる場面があり、そうした話を
基にしていること。物の怪が現れる場面では、夢か現実か分からない絶妙な描写であること。
夕顔が物の怪に死す場面では「「なほ持て来や。所に従ひてこそ。」とて、召し寄せて見たまへば、
ただこの枕上に夢に見えつる容貌(かたち)したる女、面影に見えて、ふと消え失せぬ。…」と
人物の会話をはさむことで、物の怪の存在感が高まり臨場感のある描写となっていること。
物の怪の正体は某院に昔から住む物の怪なのか、六条の御息所の物の怪なのか、
はっきりとは明かされていない所がより、この巻の怪しの世界に幅と深みを持たせていること。
夕顔が亡くなった後の、光源氏の純粋な人柄、惟光の気転の良さなども丁寧に描かれていることも
大事であることなど。
より源氏物語の世界を知りたくなるような興味深いお話しを拝聴しました。
源氏物語は、人間とは何か、人の心とは何かといった、普遍的なテーマが描かれているのだという
前回の中永先生の講演の総論を受けて、今回は、原文を味わいながら源氏物語のテーマと世界観を
皆様方と共に味わうことができました。
中永先生、そして会場の皆様方、大変ありがとうございました。
当日、お越しになれなかった方も含めましてご報告とさせて頂きます。
(参加人数101名)
※1階ヤングアダルトコーナー前に「源氏物語の魅力」展示コーナーを設置しています。(12/27まで)
展示期間が終わっても、所蔵しており、書庫所蔵資料も含めて借りることができます。(一部閲覧のみ)