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イベント報告 大人のための100選   2021/11/20

大人のための100選講演会を開催しました(報告)

2021年11月20日(土)、米子市立図書館「大人のための100選」文化講演会を開催しました。

「大人のための100選」とは、米子市立図書館が平成29年に開設したコーナーです。

これまで、米子市立図書館では子どもやYA(ヤング・アダルト)向けの世代におすすめする本のリストはありましたが、大人向けのおすすめ本リストはありませんでした。米子市立図書館から発信する新しい読書の形は、全国でもSNSを通して大きな反響を呼びました。

この講演会は、「大人のための100選」を開設した米子市立図書館元司書の大野秀さんをお招きし、100選の中の1冊をテーマに、じっくり読み解いていくものです。

第4回目となる今年のテーマは「パレスチナの歴史を読む」。G. カナファーニー著『ハイファに戻って/太陽の男たち』とE・サイード著『オリエンタリズム』を読み解く予定でしたが、惜しくも『オリエンタリズム』について語られる前に終了時刻となってしまいました。しかし、『オリエンタリズム』を中心に、ポストコロニアル理論を確立したサイードの出自であるパレスチナを深く知ることができ、とても意義深い講演会でした。

はじめに、大野さんは大人のための100選について、自分が青春時代に読んだ懐かしい本を選んだこと、100選を選ぶにあたり、もう一度読み直すという貴重な体験ができたことで、また一つ読書の楽しさを味わったことを語られました。

今回のテーマである『オリエンタリズム』と『ハイファに戻って/太陽の男たち』を読むにあたり、地図を使ってパレスチナの歴史について丁寧に解説されました。様々な民族による支配と、ユダヤ、キリスト、イスラムを中心に複雑な宗教が絡み合い、悲劇的な歴史が繰り返されてきたことや、映画「アラビアのロレンス」に見えるイギリスによる委任信託統治についても語られ、イギリスから見たアラブの描き方など、また違う角度からこの映画を見直すこともおすすめされました。

また、19世紀末に始まったシオニズム運動についても触れられ、帝国主義時代の日本でもこの運動に注目した内村鑑三と矢内原忠雄について語られました。矢内原忠雄は昭和12年に米子で「国家の理想」という演題で講演をします。この講演をもとに『中央公論』に発表した日本の軍国主義批判がもとで、東京大学を辞職する事件が起こります。米子が大きな転機点であったことを語られました。この内村鑑三と矢内原忠雄に影響を受けた米子出身の藤澤武義、この藤澤武義から岩村昇博士、そして中村哲医師につながる縁に、改めて驚きを覚えました。

『パレスチナ 聖地の紛争』(中公新書 船津靖著)、『アラブが見た十字軍』(リブロポート アミン・マアルーフ著)、『近代日本の植民地主義とジェンタイル・シオニズム』(インパクト出版会 役重善洋著)など、大野さんのおすすめの本もたくさん紹介していただきました。『オリエンタリズム』と合わせて、ぜひこの機会に読んでみようと思います。

次々に大野さんの引き出しから飛び出す知識、考察にはいつも感動します。

私たちの読書の視野をぐっと広げていただける、素晴らしい講演会でした。

またこの感動を来年も味わえることを楽しみにしています。

大野さん、ご来場いただきました皆様、誠にありがとうございました。