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報告 講演会 酒井康宏さん   2022/09/18

「ジョン・スタインベックの文学「ケルトの薄明」の魔法」講演会開催しました【報告】

2022年9月18日(日)、米子市立図書館で文化講演会「ジョン・スタインベックの文学「ケルトの薄明」の魔法」を開催しました。

講師は米子高専名誉教授の酒井康宏さんでした。酒井さんは長年スタインベック作品を研究され、スタインベック作品の中にケルト性が多くみられることを見出されました。これはスタインベック作品の新たな研究アプローチであり、国内外から注目されています。今年の2月には演題の著書も出版されました。

はじめに、酒井さんはW.B.Yeatsの詩「Into the Twilight」(薄明の中へ)を朗読され、ケルトの世界における「薄明」とは、日本人がイメージする黄色い仄明るさといったものではなく、Gray(灰色)を帯びた色であることを説明されました。灰色の薄明は、ケルトの世界では魔法の時間、妖精の時間を表す言葉だそうです。ケルトの舞台であるアイルランドは夜9時ごろまで明るい空をしており、30分ほどで突如暗闇に変わってしまうそうです。この光と闇が交わう一瞬とその後の暗闇は、ケルトの世界ではとても特別なものであり、たくさんの魔法や妖精が生まれたということでした。

アメリカでは灰色を「GREY」と綴りますが、英米では「GRAY」となり、スタインベック作品に登場する灰色は「GRAY」で表現されるそうです。アメリカの文学作家でありながら、やはりケルト性がそこにも表れているのではないかということでした。

『エデンの東』『怒りの葡萄』をはじめ、『キャナリー・ロウ』『黄金の杯』などスタインベックの様々な作品に触れながら、薄明をはじめ妖精や魔法を感じるキーワードを解説されました。スタインベック作品には実に多くのケルト性をもった言葉が登場することを実感しました。また、アメリカ文学はかつて強者を書く文学でしたが、スタインベックは弱者に目を向けて書いているということでした。

『黄金の杯』は海賊が登場する物語で、スタインベックが映画化を熱望していたが叶わなかったこと、その後同じくケルト系のルーツをもつウォルト・ディズニーの会社が「パイレーツ・オブ・カリビアン」を制作したことを解説されました。この映画の中では夜が不思議な力を持ち、暗闇の薄明の中で骸骨たちが動き出します。パイレーツ・オブ・カリビアンも、スタインベック作品の影響を少なからず受けているのではないかという考察は非常に興味深いものでした。

ケルトの宗教は日本と同じく多神教で、万物に神が宿るとされるアニミズム精神がよく似ていることを示唆されました。特に樫木信仰と、動物信仰がケルトでは著しいそうです。例えばスタインベック作品では『気まぐれバス』という作品の一場面で牛が登場しますが、この場面では物語が良い流れに進むという方向性を示唆しているのではないかということでした。

講演会の終盤では先生によるミニコンサートも開かれ、キーボードを使ってケルト系ミュージックの演奏を4曲披露されました。素晴らしい演奏に大きな拍手が送られました。

講演会後には参加された皆様から鋭く深い視点の質問も寄せられ、大変有意義な質問タイムとなりました。

皆様ありがとうございました。

ケルト音楽が出てくる映画と合わせて耳で聴いた音楽を演奏したり、文学作品を読むだけでなくこうして様々な角度で切り取り、分析し、研究する楽しさなど、今回の講演会では先生の心からの楽しい、素敵な生き方をお裾分けしていただいたような、とても豊かな講演会でした。

64名の方にご参加いただいた盛会となりました。

酒井先生、ご来館いただきました皆様、本日は誠にありがとうございました。